2022-09-16

セールスイネーブルメントとは ― IT時代の営業力を強化する人材育成の仕組み

BtoB 営業・マーケティング コラム

BtoBの営業力を強化する仕組みとして注目が高まっているのがセールスイネーブルメントです。その背景には、顧客情報や営業活動を可視化するツール(MA、CRM、SFA)が普及したことがあります。

しかし「ツールは導入したが、思うように業績が向上しない」という企業は少なくありません。

また、営業活動のデジタル化に対応して、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの組織づくりを見直したがうまく機能しない、という悩みも多くのBtoB企業が抱えています。

この記事では、このような悩みのソリューションとして注目が高まっているセールスイネーブルメントとは何か、どのような仕組みの人材育成手法なのかを分かりやすく解説します。

セールス・イネーブルメントとは?

アメリカで20世紀末に生まれたセールスイネーブルメントは、日本でも2015年ころからBtoB企業を中心に、注目が高まりつつあります。

イネーブル(enable)とは、なにかを「できるようにする」とか「実際的(効果的)にする」という意味です。

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)は、字義通りには「セールスを効果的にすること」となりますが、この用語で焦点があてられているのは「人材育成」の面です。また、現在がデジタルテクノロジーの時代だということも強く意識されています。

要するに、セールスイネーブルメントとは「デジタル時代に成果を上げる人材育成の仕組みづくり」という意味で使われている言葉です。

人材育成が変わらないとツールを使っても成果はあがらない

最近では、マーケティングや営業に、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援ツール)、CRM(顧客関係管理)などのツールを導入するのが当たり前になっています。

しかし、ツールを使うのは人であり、そのデータや分析を成果に結び付けるのも人です。

現代の営業でITデータの活用が必須になったのなら、人材育成を行う仕組み(研修プログラムや組織)もそれに合わせて変えなければ、成果を上げることはできません。

ツールは導入したが、社員の育成は旧態依然としたビジネスマナーや根性論に終始しているというちぐはぐな状況を改善し、イネーブル(有効化)するのがセールスイネーブルメントです。

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セールスイネーブルメントが注目を集める背景とは?

セールスイネーブルメントが注目され、必要とされる背景には次のようなものがあります。

  • 顧客の購買行動の変化とそれに伴う営業形態の変化
  • ITツールは導入したが、成果に結びいていない現状
  • マーケティングと営業の連携がうまくいっていない状況
  • 営業形態の変化と人材育成のミスマッチ

顧客の購買行動の変化とそれに伴う営業形態の変化

BtoBの顧客の購買行動もまずWebからスタートし、それに合わせてマーケティングやセールスの形態も変化しています。

しかし、この変化に営業組織や営業担当者の育成が追い付いていないのが多くの企業の実情です。

ITツールは導入したが、成果に結びいていない

ツールの導入が自己目的化して、成果に結びついていない企業が少なくないのも実情です。

ツールによって得られたデータや分析は、それをもとに営業担当者が「行動」を変えていくことで成果に結びつきます。

マーケティングと営業の連携がうまくいっていない

買い手の企業がWebから情報を集め、売り手の企業がその情報をキャッチし、集積するようになって、インサイドセールスの重要性が高まっています。

しかし、相変わらずマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの連携がぎくしゃくしている企業が多く、見込み客の案件化でさまざまなボトルネックを抱えています。

この状況を改善し連携プロセスを機能させるには、新人のオンボーディング(船に乗せる)やマネジャー育成など、人材育成から立て直す必要があります。

セールスイネーブルメントのメリット

セールスイネーブルメントは、企業の規模に関わりなく導入することができ、導入することでデータと戦略に基づいた人材育成が可能になります。

どんな規模の企業でもセールスイネーブルメントは有効

営業組織があり、MAやCRMを導入している企業なら、規模の大小にかかわらずセールスイネーブルメントは有効です。

セールスイネーブルメントの要は、得られたデータから営業の課題や顧客の課題を発見して、それを営業行動に活用できる人材を育成することです。それには、むしろ営業組織があまり大きくない方がやりやすく、成果も上がりやすいと言えます。

新人をいち早く戦力化できる

新人をできるだけ短期間で戦力化することは、あらゆる営業組織にとってもっとも重要なテーマの1つです。

セールスイネーブルメントは、人材育成のための適切なコンテンツ(研修素材)づくりでもあるので、新人のオンボーディングを助け、早めることが期待できます。

営業ノウハウが属人化せず全員で共有できる

セールスイネーブルメントは、言い換えるとトップセールスのノウハウを全員で共有することでもあります。効果のあったアクションは報告されて評価され、全員の財産とするための仕組みだからです。

セールスイネーブルメントの導入プロセス

セールスイネーブルメントの導入(実施)は次のようなプロセスになります。

  1. 営業データの収集と分析
  2. 育成者の任命
  3. 育成プログラムの開発
  4. 育成
  5. 成果の評価と検証
  6. PACDサイクルを回す

1. 営業データの収集と分析

人材育成に必要な方針とコンテンツを定めるために、SFAなどからデータの収集と分析を行います。

多種多様なデータから自社の営業課題やボトルネックを見つける作業なので、簡単に済ませるわけにはいかず、時間をかけて本腰で取り組まなければなりません。

優秀な営業マンへのヒアリングなども行って、着目すべきデータを絞り込んでいく必要があります。

2.育成者の任命

人材の育成には当然ながら、育成者が必要です。専任、兼任は問いませんが、セールスイネーブルメントをしっかり構築していくには、経営者やマネジメント層と渡り合える立場と能力が求められます。

3.育成プログラム・コンテンツの開発

セールスイネーブルメントの実施でもっとも重要で、手間もかかるのが、人材育成や日々の営業のガイドとなるコンテンツの作成です。

セールスイネーブルメントのコンテンツをまとめたものは「セールスプレイブック」とも呼ばれます。日本語に訳すなら「セールスのための虎の巻」です。

プレイブックには、営業メンバーが具体的な営業シーンでいつでも利用できる、ベストパフォーマンスのひな形やFAQ(こんなときどうする)が掲載されています。

広い意味のコンテンツには、オンボーディングを加速する(早く一人前にする)グループワークなどのトレーニングメニューも含まれます。

営業面では、成功事例のまとめや顧客との模範トーク集、提案書のテンプレートなどがあります。紙ベースではなく、必要に応じていつでも閲覧でき、すぐに利用できるデジタルベースにすることが大切です。プレイブック(虎の巻)は、デジタルベースにすることで、一元管理していつでも更新できます。

4.育成

作成したプログラムやコンテンツに即して、研修を行います。

多くの企業にとっては新人育成が重要なテーマですが、営業組織がある程度大きくなると、マネジャー層の育成も重要なテーマになります。

新人育成では、採用目標や採用状況をふまえて、できるだけ短期間でオンボーディングすることが最重要です。

早期戦力化で欠かせないのは、ツールを付帯業務や間接業務に費やす時間を削減することに利用して、コア業務に使える時間を増やしてやることです。

マネジャー層の育成は、いわば、課長と平社員の間に主任(次期課長)を育てることです。それぞれの企業の営業の実務に合わせて、マネジャーと育成担当者が協力して「幹部候補生」をコーチングします。

5.成果の評価と検証

育成の成果を営業の成果に紐づけて評価します。ここでいう評価とは、営業メンバー個々の成績の評価(人事査定)ではなく、コンテンツの有効性の評価と検証です。

どのデータに着眼して、どんなコンテンツを作り、それが営業成果にどのように結びついたかを評価・検討します。

ツールにはさまざまなデータがあるので、どのデータに着眼するかは非常に重要です。自社の営業課題や顧客が求めるソリューションに密接に関係しているデータであるほど、イネーブルメントの成果は大きくなります。

6.PACDサイクルを回す

検証の結果を教育プログラムやコンテンツの改良に活かすために、PACDを回し続けることが大切です。それによって、セールスイネーブルメントが組織に定着し、強化・更新されていきます。

セールスイネーブルメント導入の注意点

セールスイネーブルメントは、導入後のできるだけ早い時期(半年~1年)に、経営者や営業担当者自身に「これは良いやり方だ」と認めてもらう必要があります。定着には2~3年かかるとしても、初期段階でなにかの成功体験がないとモチベーションが維持できなくなります。

なにか1つから始める

まず、コンテンツを1つ作り、それによって何かの成果を得る、というのが現実的な作戦です。

誰もが学びやすく、自社の課題あるいは顧客の課題の解決に役立ちそうなコンテンツ(トレーニングや学習プラン)を作成し、それを実施することで「スモール・ウィン」が得られれば、イネーブルメントへの現場の参加意識が高まります。経営者の理解と支援も大きくなります。

成果が得られないまま、次々と新しいことを要求されると、現場の負担が大きくなり、表面的な参加しか期待できなくなります。

育成者を経営者や各部署マネジャーが支援する

セールスイネーブルメントの育成者として任命された人は、経営層、マネジメント層の理解と協力がないと力を発揮できません。

現場にとって育成者は、さしあたっては「やるべきことを増やす人」に他なりません。ふだんはあまり接点のない人物である場合も多いでしょう。そんなときに、経営のトップや直属の上司が、育成者に対して信頼を示し、全面協力の姿勢をとることは非常に重要です。

営業ノウハウを蓄積、更新し続ける

セールスイネーブルメントと営業ノウハウの蓄積がつねに紐づけられ、更新されて行くことで、営業担当者にその有効性が実感され、営業組織内に「学ぶ文化」が定着しています。

セールスプレイブックも、日々「役に立つ」ものに更新され、利用頻度も高まります。

まとめ

マーケティングや営業の世界では、アメリカからカタカナ用語の新しい概念が装置が次々に入ってきて応接にいとまがない、と感じている人も多いことでしょう。

しかし、新しい概念には、現状の問題点を解決しようとする視点が必ず含まれています。

セールスイネーブルメントでは、集積するデジタルデータと現状の人材育成システムのミスマッチを解決しようとする視点です。

この視点が自社の課題と一致すると考えられるなら研究してみる価値があるはずです。

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