2022-08-19
BtoB営業で有効な「アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)」を解説
BtoB 営業・マーケティング コラム
BtoBの世界で2010年代後半からよく耳にするようになった言葉がアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)です。しかし、ABMをマーケティング「手法」の1つとして紹介する記事もあれば、単なる手法ではなく組織全体で取り組むべき企業「戦略」だとする人もいて、充分に理解されていないのが現状です。
この記事では、ABMとはどのようなもので、なぜ今注目されているのかを解説します。また、ABMの具体的な取り組みとそのメリット、導入する際の注意点も分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)とは
ABMとは、既存の優良顧客にマーケティングと営業のリソースを集中して、売上の最大化を目指す戦略的マーケティングです。
既存顧客に対するABMの体制を構築できて、その有効性を確認できたら、属性が似ている(あるいは課題が共通しているとみられる)新規のアカウント(企業)に対してもABMを試みることが可能になります。
BtoBでは、売上げ上位の2割のクライアントが、全体の売上の8割を占めるとも言われています。その優良顧客に優秀な営業マンを担当させるなど、リソースを注入するのは当然です。そんなところから「ABMなんて昔からやっている」と言われたりもします。
しかし、ABMは、マーケティングと営業が緊密に連携して特定アカウント(優良顧客)を攻めるのが特徴です。従来は、主要顧客を長年担当してしてきた営業エリートが「ここはマーケティング部の出番じゃないよ」という姿勢で、開拓してきたコンタクトポイントに、蓄積したノウハウでアプローチするのがいわば定番でした。
営業部には「大切なお客様なので、マーケ部の若い社員に下手にいじられてはたまらん」という意識がありがちなのです。しかし、それで本当に優良顧客から得る利益を最大化できるのか、持続的な成長を維持できるのか、と問うのがABMの発想です。
ABMが注目される背景
主要顧客に対するABMが注目されるようになった背景には、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理)などのITツールが発展し、使いやすくなったことがあります。
ABMの対象になるのは、多くの部署、事業所、関連会社をもつ中堅企業~大企業です。横の広がりとともに担当者から役員までの縦の階層も深く、数多くの複雑に関係しあうコンタクトポイントがあります。
このようなターゲットに、マーケティングと営業が連携してアプローチするには、社内各所に散らばっている、あるいは営業担当者個人が握っているデータを一元管理することが必要です。
また、データを分類、分析して、どの部署にはどんなコンテンツが必要かを研究し、担当者に響くコンテンツでアプローチしなければなりません。そのためにITツールの利用は必須です。
ABMのメリット
ABMが機能すれば次のようなメリットが得られます。
- ターゲットアカウント内で取引のない他部門との取引を開拓できる
- 戦略的に人材と経費を集中できる
- マーケティング部とフィールド営業の連携も戦略として定義される
- アカウントのニーズ・課題に寄り添いLTVを最大化できる
それぞれについて見ていきましょう。
ターゲット内で取引のない他部門との取引を開拓できる
メインの顧客の企業規模が大きければ、その企業内に未開拓の部署があるはずです。
例えば、人事管理、生産管理、販売管理を1つのアプリケーションで行える製品を販売するBtoBなら、ターゲットとしたアカウント(企業)内に、その製品を導入していない部署や部門が存在する可能性があります。
しかし、営業担当者のアナログな営業アプローチだけでは、キーパーソンが異なる他部署にリーチできない場合が少なくありません。
そんなときに、ITツールのデータ統合力や分析力を駆使するABMなら、適切なタッチポイントの発見や、関係の維持・発展に貢献するナーチャリングコンテンツの作成が期待できます。
そうなれば、ベテランぞろいの営業チームも「わしらの顧客に勝手にEメールを送らないでくれ」という反応はしなくなるはずです。
企業戦略として人材と経費を集中できる
ABMを導入するかどうかは、どこかの部署が決める営業戦術ではなく、経営トップが決定する企業戦略です。
したがって、特定アカウントに必要なリソースを集中することが、どこから反対されることもなく果断に実施されます。
マーケティング部とフィールド営業の連携も戦略として定義される
リソースの集中だけでなく、とかく問題を生じがちなマーケティングと営業の連携も戦略として定義されます。
営業部がそれを無視することができないのはもちろん、連携が可能かどうかではなく、連携するためのシステムと組織の構築が全体の最重要テーマになるのです。
アカウントのニーズ・課題に寄り添える
ABMを導入して、営業リソースを特定アカウントに集中し、部署間の連携が緊密になれば、より顧客ニーズや顧客の課題に寄り添う施策、関係構築が可能になります。
近年のマーケティングでは、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)つまり、1顧客の生涯に渡る購入額が重視されるようになりました。BtoBにおいては、ABMこそがLTVを最大化させる戦略だと言えます。
ABMでの具体的な取り組み
アカウントベースドマーケティングを実践していく際の具体的な取り組みを紹介します。
アカウントリストの作成と情報の共有
ABMでは、自社が注力してアプローチするべき企業(アカウント)はどこかを、まず決定します。最初は当然ながら、既存顧客の中からLTVを拡大していけそうな顧客をリストアップします。
ターゲットをリストアップしたら、その企業に関する情報をすべて、マーケティング部と営業部で共有します。どこかの部署の誰かだけが特定の情報を握っているのでは、ABMは機能しません。
どのように情報を共有するかは、簡単なテーマではありませんが、仕事のルールを決めていく中で、ツールも利用しながら「共通財産」として情報を可視化していくことが必要です。
コンタクトポイントを確認し、レベルに応じて分担する
1つのアカウントの中にも、部署によって、職位によって複数のコンタクトポイントがあります。ポイントによって、Eメールを送るべきなのか、電話をすべきなのか、訪問すべきなのかなどアプローチのレベルが異なります。
ABMでは、コンタクトポイントの開拓やレベル分け、それに応じたアプローチの分担が必要です。
分担したポイントでナーチャリングを行う
自分が分担したポイントでは、刺さるコンテンツ作りや、電話でのトークやヒアリングに磨きをかける「日常業務」を遂行してきます。
この業務は一般的なBtoBのマーケティングであるデマンドジェネレーションでは、リードナーチャリング(見込み客の育成)と呼ばれる業務ですが、ABMでももちろんナーチャリングは必要です。
トスアップ(案件引き渡し)のルール作り
ターゲットのニーズに応えるコンテンツでナーチャリングした案件は、対面営業にトスアップされてクロージング(成約)を目指します。
ABMではトスアップの数よりも質が重要視されます。下手な鉄砲も数撃てば当たる的な案件をトスアップすると、営業から「大切なお客様を下手にいじるな」という声があがるからです。
したがって、ABMではナーチャリングの段階からインサイドセールスとフィールドセールスの連携、打合せ、協力が必要で、そのルール作りも欠かせません。
効果測定・評価とフィードバック
ABMでは、顧客の課題へのアプローチができているか、キーパーソンとのエンゲージメントが強化されているかを、定期的に評価・測定するシステムを作る必要があります。
その評価をもとにPDCAを回し、施策を改善していきます。
デジタルツールを活用する
上記のように、ABMの実施には大量のデータ処理、データの連携が欠かせません。それを行うにはMAやCRMなどのデジタルツールの活用が必須になります。
マーケティング部だけでなく営業部も使いこなせるツールを導入し、複雑に関係しあう情報を可視化して施策に結び付け、その評価測定も可視化していかなければなりません。
ABMを導入する際の注意点
ABMを導入する際には、次のような点に注意が必要です。
- ABMは企業戦略であり、その導入はトップが判断する
- まずターゲットにすべきは既存の優良顧客
- マーケティング部と営業部の連携を強化する
- デジタル弱者を放置しない
以下、それぞれについて解説します。
ABMの導入はトップが判断する
先述したように、ABMはどこかの部署が「やってみようか」といって取り組めるものではなく、企業戦略として取り組むテーマです。導入が決まれば、組織改編も評価制度の再編も社長命令で断行されます。
当然、その前には自社がABM導入に向いているのかが検討・判断されます。実施に至るまでには多くの工数とコストがかかるので、簡単に後戻りすることは許されません。
まずターゲットにすべきは既存の優良顧客
取引実績のない新規企業をターゲットアカウントにすることは可能ですが、まずは既存の優良(大口)顧客をターゲットにして、ABMのノウハウを社内に蓄積していくことが必要です。
既存顧客で一定の成果が出たら、よく似た属性や課題を持つ企業をターゲットにすることが可能になります。
マーケティング部と営業部の連携を強化する
ABMの実施にはマーケティング部門と営業部門の連携・協力が前提とはいっても、やはり出てくるのは、お互いへの不満や不信です。
規則で解決することはできないテーマで特効薬はありませんが、いっしょに作業をして、ときにぶつかり合う中で、戦友的連帯感を醸成していくことが大切です。
デジタル弱者を放置しない
ABMにはデジタルツールの活用が必須だと述べましたが、どうしても出てくるのが苦手意識を持って、自分から活用することを半ばあきらめてしまうデジタル弱者です。
しかし、そんなデジタル弱者を放置すると、ABMの効率を低下させたり、重要なポイントを見逃す可能性があります。
デジタル弱者を自認する人には、必ず自負している他の長所があります。その長所を強化するのがデジタルの力だということを理解し、あるいは理解するようにフォローすることが重要です。
まとめ
ABMはマーケティング部や営業部が「試しに導入してみる」ような「手法」ではなく、企業が不退転の決意で取り組まないと機能しない「戦略」です。
しかし、導入に成功すれば、主要な顧客と良い関係を維持、発展させることができ、BtoBの理想であるwin-winの関係を構築することができます。