グローバル事業支援

海外営業・マーケティングコラム

2026-01-09

アジア拠点営業が本格化しない理由を整理する

日本企業がアジアに拠点を設け、営業活動を行うこと自体は、すでに特別な取り組みではなくなっています。実際、長年にわたり現地で事業を展開してきた企業もあれば、近年になって新たに拠点を設け、営業体制の構築に取り組んでいる企業もあります。

こうした背景の中で、アジア拠点営業をどのような位置づけで進めるべきかについて、社内で共通の認識を持ちにくい場面も見られます。営業活動そのものは始まっているものの、それを試行段階と捉えるのか、すでに事業の柱として育てていく段階なのかによって、判断の基準や期待値は大きく変わります。

特に、アジア拠点営業を立ち上げたばかり、あるいは本格的な運用に入ってから時間がそれほど経っていない場合、国内営業と同じ考え方で進めてよいのか、どの時点で何を整えるべきなのかといった点で、迷いが生じやすくなります。その結果、活動自体は進んでいるものの、どこに向かっているのかが社内で共有されにくい状態になることもあります。

本記事では、こうした立ち上げ初期から拡大期に差しかかる段階の日本企業を主な対象とし、アジア拠点営業が軌道に乗りにくくなる背景を整理します。個別の成功事例や施策論に入る前に、初期フェーズで見落とされやすい前提や構造を確認していきます。

進出後の営業が、想定どおりに広がらない理由

アジアに拠点を設けて営業活動を始めたものの、その後の展開が想定どおりに進まない、という声は少なくありません。進出時点では一定の見込みや案件があり、営業活動そのものも立ち上がっている。それでも、時間が経つにつれて、新たな受注や広がりが見えにくくなるケースが見られます。

こうした状況では、「何も起きていない」わけではありません。既存の取引や当初想定していた案件への対応は続いており、日々の業務も動いています。ただ、その先にどのような広がりを描くのかが整理されないまま、活動が続いてしまうことがあります。

その背景の一つとして、営業活動の位置づけが定まりきらない点が挙げられます。現在の取り組みが、試行段階なのか、将来の事業拡大を見据えたものなのかによって、営業の役割や判断基準は変わるはずですが、その整理が十分に行われないまま進んでしまうケースもあります。

この状態では、営業担当者や現地スタッフが次の一手を判断しにくくなります。どのような顧客を対象とするのか、どこまで踏み込んだ提案を行うのかといった点が曖昧なままでは、活動はどうしても既存案件の延長に寄りやすくなります。

結果として、アジア拠点営業は「始まってはいるが、広がりにくい」状態になりがちです。能力や努力の問題というよりも、初期段階における営業活動の位置づけが十分に共有されていないことが、停滞感につながっている場合があります。

経済ReleaseWatch@アジア進出企業版リセルポ グローバル

営業活動の位置づけが定まらない

アジア拠点営業が想定どおりに広がらない場面では、個別の営業手法や担当者の動き以前に、営業活動そのものをどのような位置づけで捉えているのかが整理されていないことがあります。

営業活動といっても、その役割は一様ではありません。既存取引への対応を主とするのか、新たな顧客や案件の獲得を意識するのか、あるいは将来に向けた市場理解を進める段階なのか。置かれているフェーズによって、営業に求められる役割や判断基準は本来異なります。

一方で、実際の現場では、こうした整理が明確に言語化されないまま営業活動が進むこともあります。日々の問い合わせ対応や個別案件への対応に追われる中で、「いま行っている営業が何を目的としたものなのか」を改めて確認する機会が持たれにくくなるためです。

その結果、営業活動は続いているものの、判断の軸が揃いにくい状態になります。新規顧客へのアプローチ、既存取引のフォロー、情報収集といった行動が並行して行われても、それぞれの優先順位や意味づけが整理されないまま進むことがあります。

このような状態では、営業行動そのものが誤っているとは言えなくても、全体としてどこに向かっているのかを説明しにくくなります。何をもって前進と捉えるのか、どの段階に入ったと判断するのかが共有されていないため、行動が積み重なっても評価や振り返りが難しくなります。

また、判断のタイミングも定まりにくくなります。何かを決めるための基準が明確でない場合、「もう少し様子を見る」「次の動きを見てから考える」といった判断が重なり、営業の進め方そのものを整理する機会が後回しになりやすくなります。

ここで重要なのは、こうした状態が営業担当者や現地スタッフの判断ミスによって生じているとは限らない、という点です。むしろ、営業活動にどのような役割や期待を置いているのかが十分に整理されないまま進んだ結果として、行動だけが積み重なっていく構造と捉えたほうが実態に近い場合もあります。

アジア拠点営業について考える際には、行動量や手法の是非を論じる前に、いま行っている営業活動をどのような段階の取り組みとして捉えているのかを整理する必要があります。この前提が曖昧なままでは、次に何を判断すべきかも見えにくくなってしまいます。

営業の対象が広がらないまま固定される

アジア拠点営業が思うように広がらない場面では、営業活動そのもの以前に、「誰を相手に営業しているのか」が整理されないまま進んでいることがあります。

進出当初は、既存取引先や、すでに関係のある顧客への対応が営業活動の中心になります。これは自然な流れであり、初期段階では合理的な進め方でもあります。一方で、その延長として営業活動が続く中で、対象となる顧客像が更新されないまま固定されてしまうことがあります。

その結果、営業活動は行われているものの、対象は限られた範囲にとどまりやすくなります。新しい顧客に向けた動きが意識されていないわけではありませんが、どのような企業や立場の相手を想定するのかが明確でないため、行動として具体化しにくくなります。

また、アジア拠点営業では、市場や業界を単位に対象を捉えがちです。「この国の製造業」「この地域の現地企業」といった大きな括りで考えてしまうと、実際の営業行動に落とし込む際の解像度が下がります。結果として、誰に対して、どのような接点を持つべきなのかが見えにくくなります。

このような状態では、営業活動が既存取引のフォローに偏りやすくなります。新規の動きが不要というわけではありませんが、対象が具体化されていないため、結果として「これまで対応してきた相手」を中心とした活動に戻りやすくなります。

営業の対象が明確でないままでは、活動の幅を広げる判断も難しくなります。どこまでを守り、どこからを広げるのか。その線引きができないままでは、営業活動はどうしても慎重になり、結果として広がりにくい状態が続いてしまいます。

アジア拠点営業を考える際には、営業の進め方や手法以前に、いまどのような相手を営業の対象として捉えているのかを整理する必要があります。対象が曖昧なままでは、営業活動の方向性も定まりにくくなってしまいます。

経済ReleaseWatch@アジア進出企業版リセルポ グローバル

情報や知見が、営業判断に生かされにくい

アジア拠点営業では、日々の営業活動を通じて、さまざまな情報や知見が現場に蓄積されていきます。顧客とのやり取り、市場の反応、現地ならではの商習慣など、営業を進める中で得られるものは少なくありません。

一方で、こうした情報が、次の営業判断や方針検討に十分生かされていないと感じられる場面もあります。情報自体が存在しないというよりも、「どこにあるのか分からない」「判断に使える形になっていない」という状態に近いことが多いように見受けられます。

特に立ち上げ初期のアジア拠点では、営業活動が個別対応を中心に進みやすくなります。案件ごと、顧客ごとに状況が異なるため、情報もその都度のやり取りとして蓄積されがちです。その結果、個々の経験や気づきはあるものの、それらが横断的に整理される機会が限られてしまいます。

また、営業の対象や位置づけが明確でない状態では、どの情報を重視すべきかも判断しにくくなります。顧客の反応、市場の特徴、競合の動きなど、多くの情報が断片的に集まる一方で、それらをどの観点で整理すればよいのかが定まらないため、結果として「参考情報」にとどまってしまうことがあります。

こうした状況では、営業活動の振り返りも難しくなります。うまくいった点やそうでなかった点を整理しようとしても、どの情報を基準に考えればよいのかが明確でないため、個別案件の話に終始しやすくなります。次の判断につながる形で知見が残りにくいのは、このためです。

アジア拠点営業が広がりにくいと感じられる背景には、情報量の不足ではなく、情報の扱われ方の問題が影響している場合があります。営業活動を通じて得られた知見が、個人の経験にとどまり、組織としての判断材料に変換されにくい状態では、次の一手を考えるための土台が整いにくくなります。

このように、情報や知見が営業判断に結びつかない状態が続くと、営業活動はどうしても手探りになりがちです。活動自体は行われていても、「何が分かってきたのか」「次に何を確認すべきなのか」が共有されにくくなり、広がりを描くための判断が難しくなってしまいます。

まとめ

本記事では、アジア拠点営業が想定どおりに広がりにくいと感じられる背景について、特定の原因を断定するのではなく、いくつかの視点から整理してきました。

まず、進出後の営業活動が「動いていない」わけではないにもかかわらず、広がりが見えにくくなる状態があることを確認しました。初期段階では一定の案件や対応が存在するため、停滞しているのか、次の段階に入っているのかを判断しづらくなる場面があります。

次に、営業活動そのものをどのような位置づけで捉えているのかが明確でない場合、判断軸が揃いにくくなる点を整理しました。営業行動の是非以前に、「いま何を確認するための営業なのか」が言語化されていないと、行動が積み重なっても評価や振り返りが難しくなります。

さらに、営業の対象が進出当初の関係先に固定されやすい点や、営業活動を通じて得られた情報や知見が、次の判断に生かされにくい状態についても触れました。いずれも、個々の対応が間違っているというより、全体を整理する視点が持ちにくい状況で起きやすいものです。

こうして見てくると、アジア拠点営業が軌道に乗らないと感じられる背景には、「何ができていないか」よりも、「何が整理されないまま進んでいるか」という問題が横たわっていることが分かります。営業の進め方や手法を論じる前に、活動の位置づけ、対象の捉え方、情報の扱われ方といった前提を一度整理することが、次の判断につながる場合もあります。

ここで重要なのは、こうした整理が一度きりの作業ではないという点です。アジア拠点営業は、立ち上げ段階から拡大を目指す段階へと移るにつれて、求められる役割や判断基準が変わっていきます。その変化に合わせて、営業活動の意味づけも更新していく必要があります。

うまくいっているかどうかを判断する前に、まず確認すべきなのは、「いま自社は、何を確かめるために営業活動を行っているのか」という問いかもしれません。この問いにすぐ答えられる状態であれば、次に何を判断すべきかも見えやすくなります。一方で、答えに迷う場合には、行動や施策を増やす前に、立ち止まって整理する余地が残されているとも言えます。

経済ReleaseWatch@アジア進出企業版リセルポ グローバル

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