2022-08-24

インサイドセールス成功の方程式「The Model」とは

BtoB 営業・マーケティング コラム

MA(マーケティングオートメーション)のクラウドサービスが身近なものになり、組織的なインサイドセールスを導入する企業が増えています。

コロナ禍で対面営業が難しくなったこともあり、まずインサイドセールスでリードの選別(クオリフィケーション)や育成を行って、確度の高い見込み客をフィールド営業にパスするのがBtoB営業のスタンダードになりつつあります。

しかし、インサイドセールスはマーケティングやフィールド営業といかに連携するかが成否を分ける鍵になるので、その点に苦労し、成果を出せないでいる企業が少なくありません。そのソリューションとして注目されているのが、The Model と呼ばれる営業モデルです。

この記事では、The Model とはなにか、なぜインサイドセールスの成功に結び付くと言われているのかを分かりやすく解説します。

The Model とは

The Model とは、一言でいうと「営業プロセスを分業し、各セクションを協力・連携させる仕組み」です。

具体的には、営業プロセスを《マーケティング→インサイドセールス→フィールド営業→カスタマーサクセス》の4部門に分け、それぞれにKPI(業績評価指標)を設けて仕事を分担します。

重要なのは、営業プロセスを分業するのが The Model なのではなく、分業したセクションをうまく連携させる仕組みづくりがThe Modelだということです。

The Model を提唱したのは、セールスフォース・ドットコムの日本市場での成功を牽引した福田康隆ですが、その著書「The Model」(翔泳社、2019年)のサブタイトルは「マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス」です。

著書の中で福田は「グループに分けると、人は敵対する」と述べています。また「協力せざるを得ない目標を与えよ」とも述べています(64~66ページ)The Model 型の分業組織を導入する際はつねに念頭に置く必要がある言葉です。

中小企業を顧客とするBtoBに向く営業モデル

The Model は、中小企業を中心とする多くの顧客と継続的な関係を構築したいBtoBに向く営業モデルです。

エンタープライズ企業をターゲットにする場合は、特定企業に営業リソースを集中するABM(アカウント・ベースド・マーケティング)が有効ですが、The Model はまず多くのリードを集めることからスタートします。

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The Model の営業組織

The Model の営業組織は、上述したように、マーケティング、インサイドセールス、フィールド営業、カスタマーサクセスの4部門で構成されます。

マーケティング

最初のプロセスであるマーケティング部門は、見込み客(リード)の獲得と育成が仕事です。施策としては、訪問者数を増やすためのオウンドメディア運営や広告配信、メールやホワイトペーパー配布などがあります。

顧客がWebで情報収集をするようになり、その行動をMAで詳細にトラッキングして分析できるようになり、営業プロセスにおけるマーケティングの重要性が非常に高まっています。

マーケティング部というと、デジタルネイティブ世代の若い社員の職場というイメージですが、The Model の著者は「マーケティング部門はオーケストラの指揮者」と述べています。その理由は、オンライン、オフラインを問わずすべてのチャネルがマーケティングからスタートし、チャネル同士の連携もマーケティングによって采配されるからです。

したがってマーケティングはデジタルであると同時に戦略的でなければならず、経営トップが戦略の根幹を策定して、独自のKPIで管理しなければなりません。

インサイドセールス

インサイドセールスは、リードを母数とし、アクティブな層(ホットリード)に対してアプローチして案件化を目指します。具体的には、メールや電話など非対面の営業活動で継続的なコンタクトをとり、フィールド営業部門へパスします。

インサイドセールスを営業部門のファーストキャリアとして新入社員に担当させるケースが多いのですが、導入時にはトップセールスが参加して「顧客の好反応を引き出すトーク例」などのマニュアルを作成することが不可欠です。

ややもすると労働集約型になりがちなインサイドセールスを、MAと再現可能なマニュアル(The Model では「プレイブック」と呼んでいます)でサポートする必要があります。

インサイドセールスはマネジメントがもっとも重要になる部門なので、質と量をバランスよく評価できるKPIを設定し、顧客に最初に接する生の人間としてのプライドを持って業務を行えるように管理、指導しなければなりません。

インサイドセールスの要員に戦略的な意義を教えずに、あるいはマニュアルが不十分でフォローがない状態で、アポの件数だけを要求すると次のような弊害が生じます。

  • 「一度お会いしてご挨拶を」的な質の低い案件が増える
  • 見込み客に悪い印象を与えて会社イメージや製品イメージが低下する
  • スタッフのモチベーションが下がって離職が増える

フィールドセールス

インサイドセールスが獲得した案件数を母数に、受注を目指すのがフィールドセールスの仕事です。

パスされた案件の質、成約可能性は差が大きいのが通例なので「商談」として1括りにするのではなく、インサイドセールスから詳細で正直な事前情報を得てフェーズ管理することが大切です。

商談では、課題の解決を重視する現場の担当者には好感触でも、費用対効果を重視する経営層に土壇場で却下されることがあります。このような「手戻り」を避けるには、できるだけ早い段階で意思決定層に会う必要があります。

カスタマーサクセス

サブスクリプション型(月額課金制)のソフトウェアサービスが普及してから、販売後(成約後)の顧客フォロー、カスタマーサクセスが以前より重視されるようになりました。

1社の顧客が長年にわたってどれだけの利益をもたらすかを重視するLTV(ライフ タイム バリュー)は、サブス時代と言われる今日は重要性を増した指標です。

カスタマーサクセスは、具体的には、導入時のオンボーディング、活用支援のサポート・コ、アップセル・クロスセル(追加機能の提案や他部署での導入提案)などを通じて実施します。

The Model のメリットを活かすための施策

The Model型営業のメリットを活かすには各セクションの「共業」が不可欠ですが、共業を行うには、その土台作りにあたる次のような施策が必要です。

  • 仕事のルールを定め、ノウハウを共有する
  • 日々の業務に活かせるKPIを設定する
  • コア業務に時間を使えるように業務支援ツールを導入する
  • 新入社員の早期戦力化を図る
  • 案件の定性評価とフィードバックを行う

それぞれについて解説します。

仕事のルールを定め、ノウハウを共有する

各セクションの業務の進め方とセクション間の連携について、明確なルールを定めて「人によってやり方が違う」ことがないようにします。

もちろん、一度に完璧なルールはできないので、課題や問題が生じるたびに柔軟に改訂していく必要があります。

また、業務で得られた気づきやノウハウを個人のものにせずに共有し、お互いに参照できるような仕組みを作ります。

日々の業務に活かせるKPIを設定する

各部門で日々の業務の目標になり、マネジメント層の評価の基準になるKPIを設定します。

KPIは部門内のパフォーマンスだけでなく、部門間の連携に関わる項目も必要です。

コア業務に時間を使えるように業務支援ツールを導入する

インサイドセールスは電話で顧客と接する部門なので、入力、記録、報告などの付帯業務に費やす時間をできるだけ減らし、コア業務に集中できる環境が必要です。

そのために必須なのが、MAなどの業務支援ツールです。マーケティング部門ではツールを活用するが、インサイドセールスはマンパワーに頼るというのでは、業務の流れにボトルネックが生じます。

むしろ、平日の日中しかお客様とコンタクトできないインサイドセールスこそ、付帯業務を省力化するツールの活用が欠かせません。

新入社員の早期戦力化を図る

インサイドセールスは新入社員のファーストキャリアになることが多いと述べましたが、新入社員を早く戦力化することは、プロセス全体の効率を上げるために重要な視点です。

そのためには、The Model が「プレイブック」と呼ぶマニュアル、日常的に繰り返し参照できる、体系立てた仕事のアドバイス集を作る必要があります。

案件の定性評価とフィードバックを行う

案件を渡せば終わりではなく、その案件が次のプロセスでどうなったかをフィードバックし、トスアップされた案件の質についても評価するシステムが必要です。

h2The Model の導入における注意点

The Model 型の営業組織を機能させるために必要な注意点を紹介します。

部門間の協力

The Model では「共業」が大前提だとはいえ、部門を作ればその内と外ができ、対立や反感が生じるのが人の常です。

先述した「協力せざるを得ない目標を与える」のは確かにキーポイントですが、マネージャークラス同士の共業姿勢がスタッフに及ぼす影響も小さくありません。

ノウハウの属人化を防ぐ

ベテランの優秀なインサイドセールスやフィールドセールスが言語化しにくい独自のノウハウを持っているのはある意味で当然ですが、それをできるだけ言語化し共有財産にしていくことがThe Model を機能させる鍵になります。

案件の数だけでなく、質を評価してフィードバックする

インサイドセールスが案件の数だけを重視すると、それを受け取るフィールドセールスの商談成約率が低下します。

案件の質にばらつきが出るのは仕方ありませんが、パスするときに情報を提供し、フィールド営業がフェーズ管理しやすくすることが重要です。

フィールド営業が案件を商談化したときの結果をインサイドセールスにフィードバックする仕組みと、案件の質を評価する仕組みも欠かせません。

デジタルツールの活用

管理のためのMA、CRMではなく、担当者の業務を支援し、結果につなげるツールの活用が The Model 型営業の成果を左右します。

新人教育のハンドブックの作成

インサイドセールスの新人を早く一人前にすることが、プロセス全体の効率を上げます。

先輩の時間も奪うOJTに頼らずに、新人がいつでも参照できる業務プロセスや模範サンプルなどを記したハンドブックを作成する(あるいはツールに組み込む)ことが必要です。

まとめ

The Model 型の分業組織を作るのはそれほど難しいことではありませんが、その「共業」システムを構築し機能させるのは簡単ではありません。

逆説的ですが、The Model にモデルはなく、それぞれの企業が自社に合う The Model 型営業システムを構築していくことが求められます。

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