2022-09-26

BtoBのSTP分析はポジショニングから始めよう【実地で役立つSTP分析の考え方】

BtoB 営業・マーケティング コラム

STP分析はマーケティングを学ぶ人が最初に出会う基本的なフレームワークです。しかし、誰もが知っているが実際に役立てている人は少ないのがSTP分析だとも言われています。

マーケティングに行き詰ったらSTP分析に戻れと言われるほど重要かつベーシックなフレームワークであるにもかかわらず、役立てていない、使いこなせていないと言われるのはなぜでしょうか?

その原因は、STP分析の3本柱であるセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの意味を「分かっているつもりでよく分かっていない」ところにあるのではないでしょうか。知識としては持っているが腑に落ちていないのです。

さらに、この「腑に落ちない」原因の1つは、最初にSTP分析を勉強したときの教科書が、セグメンテーションからターゲティングへ、ターゲティングからポジショニングへという「順序」だとしていることにあるのではないでしょうか?

しかし、何かの製品やサービスを実際にこの手順でSTP分析しようとしても「どこから手をつけたらよいのか分からない」となるのが落ちです。

この記事では、STP分析が腑に落ちないマーケティング初心者のために、S→T→Pの順序にこだわらずに、このフレームワークの意味と重要性を分かりやすく解説します。

STP分析とは

まず、STP分析とはどんなフレームワーク(思考の枠組み)なのかをおさらいしておきましょう。

STP分析は、アメリカの経営学者でマーケティングの父と言われるフィリップ・コトラーが、1970年頃に提唱した市場分析の手法です。

STPは、そこで用いられる3つの重要な概念

  • セグメンテーション(Segmentation)
  • ターゲティング(Targeting)
  • ポジショニング(Positioning)

の頭文字です。

セグメンテーションは「市場の細分化」です。たとえば、自社のタブレットを教育現場に販売したいと考えたら、「教育現場」だけでは広すぎるので、大学なのか、高校なのか、中学なのか、小学校なのかを細分化します。さらに、小学校だとしたら高学年か低学年かと細分化を進めます。また、さらに、小学校低学年だとしたら、都市圏の小学校なのか、地方の小学校なのかも細分化の項目になるかもしれません。

ターゲティングは、細分化した市場でたとえば「地方の小学校」と狙う市場を定めることです。とくにBtoBではターゲットを誤ると売れるはずの商品がまったく売れなくなります。

ポジショニングは競合と比べた自社の立ち位置ですが、具体的には「自社の製品の長所を顧客にどう説明するか」ということです。たとえば「B社のタブレットよりも価格は少し高いですが、子どもがランドセルに入れて飛び跳ねてもめったに壊れることはありません。なにより低学年でも使いやすく、クラスに落ちこぼれの子どもを生みません」などです。

教科書的解説の順序と実際の手順

教科書的なSTP分析の説明の順序としてS→T→Pなのは分かりますが、実際のマーケティング手順はどうなのでしょうか?

現にある商品やサービスは、ポジションもターゲットもすでに定めたものがあるはずで、STP分析はその見直し、再定義に用いるフレームワークです。

新商品の開発でも、そのアイディアにはある程度ポジショニングやターゲティングが含まれていて、STP分析はその検証に用いられます。

したがって、既存商品が「良い製品なのに思ったほど売れないのはなぜか」を分析するときに、実際には、茫漠として広大な市場の細分化(セグメンテーション)から入ることはありません。

これは、マーケティングの実務者には当然のことかもしれませんが、初心者がSTP分析を学ぶときに「S→T→Pの順に分析を進める」と説明されると、なんとなく腑に落ちないまま「そういうものか」で通り過ぎてしまう心配があります。

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ポジショニングからターゲティングを見直し、ターゲティングからセグメンテーションを見直すのがSTP分析

セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングは、それぞれ別の概念のようですが、そうではありません。

セグメンテーションは、ターゲティングとポジショニングを前提にしており、内に含んでいます。他の2つも同じ関係性にあります。

セグメンテーションの見直しは、ターゲティングとポジショニングに課題があると感じられたときに、この2つを見直す必要が生じたときに「細分化の仕方に別の切り口はないのか」というふうに行われます。。

ターゲティングを見直すというのも、ポジショニングの確認や見直しとセグメンテーションの見直しに他なりません。

ポジショニングの見直しはもちろん、ターゲティングとセグメンテーションの見直しを通じて行われます。

要するにSもTもPも、マーケティングという「勝てる土俵を探す行為」の照準の当て方あるいは説明の仕方の違いにすぎません。

ポジショニングが決まらないとターゲティングできない

オフィス用複合機で米国シェアの10%を取っているのがブラザーです。キャノンの11.7%、ゼロックスの8.3%と互角に渡り合っています。

この成功の要因は「自営の飲食店や小売店の限られたオフィススペースに置ける、小型で低コストの商品ですが、業務用に使える高速印刷などの機能があります!」というポジショニングにあります。

40cm四方で高さが30cmなど、コンパクトな複合機を主力とするブラザーのポジショニングとしては当然とも言えますが、小型・低コストというポジショニングには、上記のようにターゲットも宣言されています。

さらにターゲットを詳細に定めるには、バックヤードの隅にオフィススペースを設けているように店舗にはどのような業者や業態があるのか、地域性はあるのかなどのセグメンテーションが必要です。

また、そういう店舗ではコピーや印刷、FAXなどについてどんな課題があるのかも考えなければなりません。それによって、サービスのあり方や顧客に響く販促コンテンツの制作を検討することができます。

このように、BtoBではポジショニングを決めないとターゲットセグメントができません。話は逆なのです。

STP分析は環境の変化に応じて繰り返し実施する

環境は変わり、競争相手も変わります。昨日までの「勝てる土俵」で今日も勝てるとは限りません。

帝国データバンクが挙げている事例をご紹介します。(第10回:セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(STP)

独自の金属切削技術と産学連携の技術共同開発という強み(ポジショニング)を持つタナカメタル工業は、自動車産業をターゲットセグメントとして部品の提供を行ってきました。

しかし、リーマンショックとコロナ禍という2度の大減産を経験して、自動車産業への集中から医療機器分野へのターゲットシフトを図っています。

同社が新分野への参入が可能だと判断したのは、高い技術力と産学協同の技術開発力という強み(ポジショニング)が医療機器分野でも顧客にアピールすると考えたからです。

また、外部環境としては、高齢化社会における医療分野の将来性とこの分野への政府の前向きな支援姿勢があるのをプラス要因と考えました。

将来的には、図面をもらってその通りに制作する部品メーカーから、製品メーカーへの転換も視野に入れています。医療機器の販売においては、顧客(医療関係者)とのパイプが重要になりますが、この点でも産学共同で技術開発してきた同社の経験が活かし得ると考えています。

帝国データバンクはタナカメタル工業のSTPの見直しについて、次のようにまとめています。

タナカメタル工業自身は強みとして高い技術力を持っているため、新製品開発に積極的に取り組んでいるというセグメンテーションの切り口などはフィットしそうです。例えば、決算書情報から売上に対する研究開発費の割合が高いという条件でのセグメンテーションです。また、エンドユーザーへの広がりを重視するのであれば、成長市場である新興国へ販路を持っているか否かという切り口でみるというのも面白いかもしれません。いずれにせよ、「高い技術力」や「産学連携の共同開発の実績」などの強みを活かす(ポジショニング)ことができる市場にセグメンテーション・ターゲティングを行う必要があります。

引用元:上記記事

BtoBでは、BtoCのように見当違いのポジショニングにも意外なターゲットが反応してくる、というようなケガの功名はあり得ません。自社製品の強み、特徴(ポジショニング)を、それを必要としている限られたターゲットにアピールすることだけが勝つための方程式になります。

まとめ

マーケティングを勉強していて、教科書やWebの記事に書いてあることが面白くない、読んでいると眠くなるようなら、その責任は書いた方にある場合がほとんどですが、内容が腑に落ちていないと考えるべきです。

「STP分析はS→T→Pの順番でやる」を鵜呑みすると、その時点ですでにマーケティングのリアルから遠ざかり、STP分析が腑に落ちないものになり、面白くなくなります。

マーケターとしては、自社のWebコンテンツがGoogleに上位に掲載されることは非常に重要ですが、読者の立場では、上位掲載記事が役に立つ良い記事であるとは限りません。記事を読んで腑に落ちないと思ったら、面白い別の記事を探して、腑に落ちるまで考えながら読み込むことが大切です。

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