2023-03-30
BtoBの売上拡大に必要なのは「前期よりも今期」の頑張りではなく「今期よりも来期」の未来視線だ
BtoB 営業・マーケティング コラム
「今月の目標」達成に一生懸命取り組んでいるときに「売上の拡大」について考える余裕はありません。基本的には従来のやり方を踏襲し、成功パターンをモデルにして顧客にアプローチします。しかし、毎月、毎期これをくり返しているだけでは「売上拡大」も「企業の未来」も見えてきません。いつの間にか進路を間違えて、谷底に続く狭い道に入り込んでしまう危険性もないとは言えません。
売上拡大は「前期よりも今期」という努力目標ではなく、「今期よりも来期」という未来への視線でなければなりません。未来への視線とは、言い換えれば企業のヴィジョンであり、それを具体化する戦略です。この記事では、BtoB企業にとって売上拡大(=成長)のために必要な未来への視点とはなにかについて考えます。少しだけ「今月の目標」を忘れて、視線を未来に向けながらお読みいただきたいと思います。
自社の強みの把握が売上拡大のスタートライン
マーケットになぜ必要とされているのかが「自社の強み」です。この強みを自覚して、さらに強化していくことが自社の存在価値を高めて、売上を拡大します。
施策の中心に自社の強みを置き、常にそこに立ち返る
自社の強みとは、言い換えると「市場に支持される企業目的」です。市場からの支持をどう強化していくかをすべての施策の中心に置くことが大切です。
多角経営がもてはやされたバブル期には、製鉄会社が居酒屋経営に手を出して失敗したというようなことが日本中で起こりました。金余りの時代に経営コンサルタントなどにそそのかされた愚策といえばそれまでですが、製鉄マンガ居酒屋の店長に出向して苦労している姿は気の毒というしかありませんでした。
売上拡大も、取って付けたような施策ではなく、自社の強み(市場に必要とされいる価値)から発想した施策でないと本当の推進力にはなりません。それでは自社のノウハウやリソースを活かせないからです。
自社の価値を高める未来に向けたポジショニング
自社が市場に提供している価値(競合が提供できない価値)とはなにかを追求・自覚し、それを高めていく戦略を練るのが売上拡大の出発点であり、つねに立ち返るべき1丁目1番地です。
1980年代に「突っ張り棒」のヒットで売上を急拡大した平安伸銅工業は、商品の陳腐化と競合商品の増加で業績が悪化し、2000年代には売上がピーク時の1/3以下にまで低下しました。
この危機的状況での同社の売上拡大戦略は、企業の使命を〈「暮らすがえ」の文化を創る〉と定義し、ビジョンを〈アイデアと技術で「私らしい暮らし」を世界へ〉と定めることでした。
一見すると抽象的なこの使命とビジョンは、アイディアが勝負の生活雑貨メーカーにとっては、企業の存在価値(=強み)を確認することになり、従業員のやりがいと創意工夫を高めることに成功して、約10年で売上が2.7倍に拡大しました。
企業のポジショニングというと一般的には競合との関係が重視されますが、それ以前に顧客と向き合った自社の存在理由を確認することが原点です。
顧客理解を深めていけば売上拡大が見えてくる
BtoBの売上を拡大するには、長期的な視点で顧客との関係を構築する必要があります。また、顧客と良い関係を築くためには、顧客の営業プロセスに対する理解が何よりも重要です。
顧客の課題を察知することから売上拡大の道が拓ける
顧客がつねに考えているのが、業務プロセスのどこに改善の余地があるか、ということです。その相談相手になれるくらいに顧客理解を深めれば売上拡大は自然とついてきます。
プラスチックの成型用設備とシステムの製造・販売をおこなう松井製作所は、自社の営業を「装置を販売する一般的な営業とは異なり、業界セグメントごとの素材、成形品、金型などのトレンドを収集。より専門的な知識により、お客様の潜在的な課題を解決する仕事です」と位置付けています。
最近はソリューションという言葉が一般的になりましたが、顧客の顕在的な課題にアプローチしても、待っているのは競合との価格競争です。顧客がまだ気づいていない潜在的な課題やリスクに向けて提案できれば、顧客とより良好なwin-winの関係を築くことが可能です。
見込み客の育成とは何か
自社の強みからターゲティングして見込み客を獲得し、見込み客のニーズ(課題)を察知して、それに合うコンテンツを提供することで、ホットリードに育てていくことができます。
マーケティングのナーチャリング(見込み客育成)ではさまざまな手法が語られていますが、WebセミナーでもDMやメールでも、「顧客の課題」という的を射た内容のコンテンツがあってこその手法です。
手法のあれこれに気を取られて肝心のコンテンツの内容が薄いと、相手に刺さらない矢ばかりを射ていることになります。
本当はデジタルが好きでなくてもDXなしに売上拡大は望めない
経営者の中には、口を開けばデジタルツールがどうの、サブスクがどうのという風潮を内心苦々しく思っている人が少なくありません。しかし「仕方がないからぼちぼち取り入れていこう」の姿勢ではDX(デジタルによる企業変容)は絵に描いた餅に終わります。
デジタルによるデータの可視化が不可避な時代になった
マーケティングという言葉も本当は好きじゃないんだ、という経営者もいるでしょうが、見込み客の獲得や育成にデジタルマーケティングによるデータの蓄積、可視化は必須です。ここで競合に後れを取ると勝ち目はなくなります。
BtoB営業で有効性が注目されているアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)も顧客企業についての大量のデータを蓄積、連携、分析するツールがないと、具体的なアプローチの手がかりが見えてきません。
経産省が警鐘を鳴らしている「2025年の崖」までにDX(デジタルトランスフォーメーション)の浮揚力をつけておかないと、機体(企業)は崖下に墜落することになりかねません。
部下に任せるDXは企業の血肉にはならない
「若い者がやってくれている」というデジタルマーケティングは本当のDXにつながりません。経営者や部長クラスが本気で学んで、若い者のやっていることを理解し、語り合うことが大切です。
マーケティング部と営業部の使っている言葉が違って会話が成り立たない、という話はよく聞きますが、その責任はデジタル化を部下に丸投げするマネージメント層にあります。
デジタルツールといっても、MAやCRMなどのマーケティングツールは、経費精算ツールや翻訳ツールのように業務の省力化を図るものではありません。関係性が見えないデータの関係を「見える化」するのが目的です。
しかし、見えてきたものを施策に落とし込むのはマーケティング部だけではかないません。可視化されたものが実像か虚像かも含めて、営業部はもちろん経営層もいっしょに話し合い、決定し、予算をつけなければ「戦略」にはなりません。
社員の共感と成長が売上拡大を実現する
売上を「実現」するのは社員です。企業目的に対する社員の共感と成長なしに売上拡大を継続していくことはできません。
社員の企業目的への共感は、社員の成長を支援する教育姿勢から生まれる
今月の目標を鼻先にぶら下げて社員を叱咤し続けても、社員の企業目的への共感は生まれず、エンゲージメントも高まりません。
とくに、マーケティングと営業の間にあって見込み客の育成とアポイント獲得を業務にするインサイドセールスは、新人が配属されることが多いこともあり「支援」を基本姿勢にした教育が行われないと、ストレスフルなだけのやりがいを感じられない職場になります。
組織的な支援体制で社員をイネーブルすることで売上拡大は現実になる
社員のマーケティング力、営業力を上げることが、何よりの費用対効果のアップ、業務効率化です。OJTだけに社員教育を任せていては、社員の成長に時間がかかり成果が上がりません。
インサイドセールスなら、製品についての知識や業務の流れの詳細を記したセールスプレイブックやトークスクリプトを用意して、それに基づいてトレーニングすることが必要です。
プレイブックやスクリプトはトレーニング期間だけでなく、オンボーディングしてからも日常の業務で新人をガイドしイネーブルする(「できる」ようにする)補助輪となります。このような支援があることで、社員の企業目的への共感がうまれ、力のベクトルが1つになります。
まとめ
BtoBの売上拡大は「前記より今期」の努力目標ではなく、「今期より来期」の未来戦略です。
未来に向かった戦略の中心には、なぜ自社がマーケットに支持されるのかという「自社の強み」を据えて、それをさらに強化することを戦略・施策の王道と心得ましょう。
自社の強みが発揮できる顧客が売上拡大のターゲットです。顧客の営業プロセスを理解し、潜在的な課題に対するソリューションを提案できるまでに顧客理解を深めていけば、売上拡大はおのずとついてきます。
顧客理解のために現代では欠かせないのがデジタルデータ、ツールの活用です。
また、売上拡大を実現するのは社員以外にはないので、その成長を支援し、企業目的への共感を高めていくことも重要です。